日本アルコール・アディクション医学会は学会員の利益相反(conflict of interest: COI)状態を公正にマネージメントするために「臨床研究の利益相反に関する指針」を策定した。
本指針は本学会における臨床研究の公正・公平さを維持し、学会発表での透明性、社会的信頼性を保持しつつ産学連携による臨床研究の適正な推進を図るために策定したものである。
本指針の適正かつ円滑な運用のために「臨床研究の利益相反に関する指針の細則」を次のとおり定める。
第1条(本学会講演会などにおけるCOI事項の申告)
第1項会員、非会員の別を問わず、本学会が主催する講演会(年次総会、教育講演会)、市民公開講座などで臨床研究に関する発表・講演を行う場合、筆頭発表者は、配偶者、一親等内の親族、生計を共にする者も含めて、臨床研究に関連する企業や営利を目的とした団体との経済的な関係について過去1年間におけるCOI状態の有無を抄録登録時に、様式1により、学会事務局へ自己申告しなければならない。
筆頭発表者、講演者は該当するCOI状態がある場合は発表・講演スライドの最初(または演題・発表者・講演者などを紹介するスライドの次)に様式1−Aにより、あるいはポスターの最後に所定の様式1−Bにより開示するものとする。該当するCOI状態がない場合は発表・講演スライドの最初(または演題・発表者・講演者などを紹介するスライドの次)に様式1−Cにより、あるいはポスターの最後に所定の様式1−Bにより明示するものとする。
第2項「臨床研究に関連する企業・法人組織、営利を目的とする団体」とは、「臨床研究」に関し次のような関係をもった企業・組織や団体とする。
- ①臨床研究を依頼し、または、共同で行った関係(有償無償を問わない)
- ②臨床研究において評価される療法、薬剤など、機器などに関連して、特許権などを共有している関係
- ③臨床研究において使用される薬剤・機材などを無償もしくは特に有利な価格で提供している関係
- ④臨床研究について研究助成・寄付などをしている関係
- ⑤臨床研究において未承認の医薬品や医療機器などを提供している関係
- ⑥寄付講座などのスポンサーとなっている関係
第3項発表演題に関連する「臨床研究」とは、医療における疾病の予防方法、診断方法および治療方法の改善、疾病原因及び病態の理解ならびに患者の生活の質の向上を目的として実施される医学的研究であって、人間を対象とするものをいう。人間を対象とする医学系研究には、個人を特定できる人間由来の試料および個人を特定できるデータの研究を含むものとする。個人を特定できる試料またはデータに当たるかどうかは厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」に定めるところによるものとする
第2条(COI自己申告の基準について)
COI自己申告が必要な金額は、以下のごとく、各々の開示すべき事項について基準を定めるものとする。
- ① 臨床研究に関連する企業・法人組織や営利を目的とした団体(以下、企業・組織や団体という)の役員、顧問職については、1つの企業・組織や団体からの報酬額が年間100万円以上とする。
- ② 株式の保有については、1つの企業についての年間の株式による利益(配当、売却益の総和)が100万円以上の場合、あるいは当該全株式の5%以上を所有する場合とする。
- ③ 企業・組織や団体からの特許権使用料については、1つの特許権使用料が年間100万円以上とする。
- ④ 企業・組織や団体から、会議の出席(発表)に対し、研究者を拘束した時間・労力に対して支払われた日当(講演料など)については、一つの企業・団体からの年間の講演料が合計50万円以上とする。
- ⑤ 企業・組織や団体がパンフレットなどの執筆に対して支払った原稿料については、1つの企業・組織や団体からの年間の原稿料が合計50万円以上とする。
- ⑥ 企業・組織や団体が提供する研究費については、1つの企業・団体から臨床研究(受託研究費、共同研究費、委任経理金など)に対して支払われた総額が年間200万円以上とする。
- ⑦ 企業・組織や団体が提供する治験費、奨学(奨励)寄付金については、1つの企業・組織や団体から、申告者個人または申告者が所属する部局(講座・分野)あるいは研究室の代表者に支払われた総額が年間200万円以上の場合とする。
- ⑧ 企業・組織や団体が提供する寄付講座に所属している場合とする。
- ⑨ その他、研究、教育、診療とは無関係な旅行、贈答品などの提供については、1つの企業・組織や団体から受けた総額が年間5万円以上とする。
第3条(本学会機関誌などにおける届出事項の公表)
第1項本学会の機関誌などで発表(総説、原著論文など)を行う著者全員は、発表内容が本細則第一条第2項に規定された企業・組織や団体と経済的な関係を持っている場合、投稿時から遡って過去1年間以内におけるCOI状態を投稿規定に定める「Disclosed Potential Conflict of Interest」(様式2-A「Self-reported Potential Conflict of Interest Disclosure Statement或いは、様式2-B「自己申告によるCOI報告書」」を用いて事前に学会事務局へ届け出なければならない。この「Disclosed Potential Conflict of Interest」の記載内容は、論文末尾、AcknowledgmentsまたはReferencesの前に掲載される。規定されたCOI状態がない場合は、「No potential conflicts of interest were disclosed.」「開示すべきCOIはない」などの文言が同部分に記載される。投稿時に明らかにするCOI状態については、「臨床研究のCOIに関する共通指針」のⅣ.申告すべき事項で定められたものを自己申告する。各々の開示すべき事項について、自己申告が必要な金額は第2条にしたがう。機関誌以外の本学会刊行物での発表もこれに準じる。なお、届けられた「Disclosed Potential Conflict of Interest」は論文査読者には開示しない。
第2項本学会が編集に携わった診療ガイドラインなどの刊行にあたっては、関係した作成委員、評価委員、統括委員のCOI状態をまとめて刊行物中に開示しなければならない。この開示は記載内容に関連する企業・法人組織、営利を目的とする団体に関わるものに限定する。
第4条(役員、評議員、委員長、委員などのCOI申告書の提出)
第1項本学会の役員(理事長、理事、監事)、評議員、学術集会会長、各種委員会のすべての委員長と委員会、学会事務職員は「臨床研究の利益相反に関する指針」のⅣ.申告すべき事項について、就任時の前年度1年間におけるCOI状態の有無を所定の様式3に従い、新就任時と、就任後は1年ごとに、COI自己申告書を理事長へ提出しなければならない。既にCOI自己申告書を届けている場合には提出の必要はない。但し、COIの自己申告は、本学会が行う事業に関連する企業・法人組織、営利を目的とする団体に関わるものに限定する。
第2項様式3に記載するCOI状態については、「臨床研究の利益相反に関する指針」のⅣ.申告すべき事項で定められたものを自己申告する。各々の開示・公開すべき事項について、自己申告が必要な金額は、第2条で規定された基準額とし、様式3に従い、項目ごとに金額区分を明記する。様式3は就任時の前年度1年分を記入し、その算出期間を明示する。但し、役員などは、在任中に新たなCOI状態が発生した場合は、8週以内に様式3を以て報告する義務を負うものとする。
第5条(COI自己申告書の取り扱い)
第1項学会発表のための抄録登録時あるいは本学会雑誌への論文投稿時に提出されるCOI自己申告書は2年間にわたり理事長の監督下に法人の事務所で厳重に保管されなければならない。同様に、役員・委員の任期を終了した者、役員・委員委嘱の撤回が確定した者に関するCOI情報の書類なども、最終の任期満了、或いは委員の委嘱撤回の日から2年間、理事長の監督下に法人の事務所で厳重に保管されなければならない。2年間の期間を経過した書類は、理事長の監督下に速やかに削除・廃棄される。但し、削除・廃棄することが適当でないと理事会が認めた場合には、必要な期間を設定して当該申告者のCOI情報の削除・廃棄を保留できるものとする。学術講演会担当責任者(会長など)に関するCOI情報に関しても役員の場合と同様の扱いとする。
第2項COI情報は、当該個人と学会の活動との間におけるCOIの有無・程度を判断し、本学会としてその判断に従ったマネージメントならびに措置を講ずるために、本細則に従い、学会の理事、関係役職者において随時利用できるものとする。利用に際しては、利用目的に必要な限度を超えてはならず、また、上記の利用目的に照らし開示が必要とされる者以外の者に対して開示してはならない(守秘義務)。
第3項COI情報は、第5条第2項の場合を除き、原則として非公開とする。COI情報は、学会の活動、委員会の活動(附属の常設小委員会などの活動を含む)、臨時の委員会などの活動などに関して、本学会として社会的・道義的な説明責任を果たすために必要があるときは、理事会の議を経て、必要な範囲で本学会の内外に開示若しくは公表することができる。但し、当該問題を取り扱う特定の理事に委嘱して、倫理委員会の助言のもとにその決定をさせることを妨げない。この場合、開示もしくは公開されるCOI情報の当事者は、理事会若しくは決定を委嘱された理事に対して意見を述べることができる。但し、開示もしくは公表について緊急性があって意見を聞く余裕がないときは、その限りではない。
第4項特定の会員を指名しての開示請求(法的請求も含めて)があった場合、妥当と思われる理由があれば、理事長からの諮問を受けて倫理委員会が個人情報の保護のもとに適切に対応する。しかし、倫理委員会で対応できないと判断された場合には、理事長は当該問題を取り扱う特定の理事1名、本学会会員若干名および外部委員1名以上により構成されるCOI調査委員会を設置する。COI調査委員会は開示請求書を受領してから30日以内に委員会を開催して可及的すみやかにその答申を行う。
第6条(COIに関する委員会)
理事会が指名する倫理委員会がCOIに関する業務を行う。倫理委員会委員は知り得た会員のCOI情報についての守秘義務を負う。倫理委員会は、COI指針並びに本細則に定めるところにより、会員のCOI状態が深刻な事態へと発展することを未然に防止するためのマネージメントと違反に対する対応を行う。倫理委員会は、本学会が行うすべての事業において、重大な利益相反状態が会員に生じた場合、あるいは、利益相反の自己申告が不適切であった場合、当該会員にその旨を通知し、COIの修正報告を勧告するなどの適切な指導を行なう。委員にかかわるCOI事項の報告並びにCOI情報の取扱いについては、第5条の規定を準用する。
第7条(違反者に対する措置)
第1項本学会の機関誌などで発表を行う著者、ならびに本学会講演会などの発表予定者によって提出されたCOI自己申告事項について、疑義もしくは社会的・道義的問題が発生した場合、本学会としての社会的説明責任を果たすためにCOI委員会は十分な調査、ヒアリングなどのもとに適切な対応を講ずるものとする。深刻なCOI状態があり、説明責任が果たせない場合には、理事長は、倫理委員会に諮問し、その答申をもとに理事会で審議の上、当該発表予定者の学会発表や論文発表の差止めなどの措置を講じることができる。既に発表された後に疑義などの問題が発生した場合には、事実関係を調査し、違反があれば掲載論文の撤回などの措置を検討する。また、関係者の行為が本学会の社会的信頼性を著しく損なう場合には、倫理委員会に諮問し、適切な措置を講ずることができる。
第2項本学会の役員、各種委員会委員長、COI自己申告が課せられている委員及びそれらの候補者について、就任前あるいは就任後に申告されたCOI事項に問題があると指摘された場合には、倫理委員会委員長は文書をもって理事長に報告し、理事長は速やかに理事会を開催し、理事会として当該指摘を承認するか否かを議決しなければならない。当該指摘が承認された時は役員及び委員は退任し、理事長は役員候補者及び委員候補者に対する委嘱を撤回することができる。
第8条(不服申し立て)
第1項:不服申し立て請求
第7条1項により、本学会事業での発表(学会機関誌、学術講演会など)に対して違反措置の決定通知を受けた者および、第7条2項により役員および委員の退任あるいは委嘱撤回の決定を受けた者は、当該結果に不服があるときは、理事会議決の結果の通知を受けた日から7日以内に、理事長宛ての不服申し立て審査請求書を学会事務局に提出することにより、審査請求をすることができる。審査請求書には、委員長が文書で示した決定理由に対する具体的反論・反対意見を簡潔に記載するものとする。その場合、委員長に開示した情報に加えて異議理由の根拠となる関連情報を文書で示すことができる。
第2項:不服申し立て審査手続
- 不服申し立ての審査請求を受けた場合、理事長は速やかに不服申し立て審査委員会(以下、審査委員会という)を設置しなければならない。
審査委員会は理事長が指名する本学会会員若干名および外部委員1名以上により構成され、委員長は委員の互選により選出する。COI委員会委員は審査委員会委員を兼ねることはできない。
審査委員会は審査請求書を受領してから30日以内に委員会を開催してその審査を行う。 - 審査委員会は、当該不服申し立てにかかる倫理委員会委員長に不服申し立て者から意見を聴取することができる。
但し、定められた意見聴取の期日に出頭しない場合は、その限りではない。 - 審査委員会は、特別の事情がない限り、審査に関する第1回の委員会開催日から1ヶ月以内に不服申し立てに対する答申書をまとめ、理事会に提出する。
- 理事会は不服申し立てに対する審査委員会の裁定をもとに最終処分を決定する。
第9条(守秘義務違反者に対する措置)
COI情報をマネージメントする上で、個人のCOI情報を知り得た学会事務局職員は学会理事、関係役職者と同様に第5条第2項に定める守秘義務を負う。正規の手続きを踏まず、COI情報を意図的に部外者に漏洩した学会員、事務局職員に対して、理事会はそれぞれ除名、解雇などの罰則を科すことが出来る。
第10条(細則の変更)
本細則は、社会的要因や産学連携に関する法令の改変などから、個々の事例によって一部に変更が必要となる場合、倫理委員会は、本細則の見直しのための審議を行い、理事会の決議を経て、変更することができる。
附 則
第1条(施行期日)
本細則は、平成26年1月1日から1年間を試行期間とし、平成27年1月1日より完全実施とする。
第2条(本細則の改正)
本細則は、社会的要因や産学連携に関する法令の改正、整備ならびに医療及び臨床研究をめぐる諸条件の変化に適合させるために、原則として数年ごとに見直しを行うこととする。
第3条(役員などへの適用に関する特則)
本細則施行のときに既に学会役員などに就任している者については、本細則を準用して速やかに所要の報告などを行わせるものとする。
第4条(「臨床研究の利益相反に関する指針」VII. 指針違反者への措置と説明責任について)
本指針の試行開始後、当分の間「VII.指針違反者への措置」については施行を見合わせる。この間、理事会はCOI委員会とともに本則の趣旨説明に務め、COI報告の完全実施を督励する。