日本アルコール・アディクション医学会は臨床医学、基礎医学、社会医学その他関係分野の協力のもとに、アルコール及び薬物・行動の依存・アディクションに関する研究の進歩並びに知識の普及、情報の提供等をはかり、もって学術、文化の発展に寄与することを目的として活動している。事業内容は、学術集会を開催(市民公開講座、日本医師会認定産業医研修会、日本医師会生涯教育講座、薬剤師研修認定講座等も開催の場合あり)、機関誌『日本アルコール・薬物医学会雑誌』(ISSN 1341-8963)発行などを行っている。
本学会が主催する学術講演会や刊行物などで発表される研究成果には、各種の疾患を対象とした診断・治療・予防法開発のための臨床研究や、アルコール・医薬品・医療機器・医療技術を用いた臨床研究が数多く含まれており、その推進には製薬企業、ベンチャー企業などとの産学連携活動(共同研究、受託研究、技術移転・指導、奨学寄付金、寄付講座など)が関与する。
産学連携による臨床研究が盛んになると、公的な存在である大学や研究機関、学術団体などが特定の企業の活動に深く関与することになり、その結果、教育、研究という学術機関、学術団体としての責任と、産学連携活動に伴い生じる個人が得る利益と衝突・相反する状態が必然的・不可避的に発生する。こうした状態が「利益相反(conflict of interest: COI)」と呼ばれるものであり、この利益相反状態を学術機関・団体が組織として適切に管理していくことが、産学連携活動を適切に推進する上で乗り越えていかなければならない重要な課題となっている。また、他の領域の産学連携研究とは異なり、臨床研究の対象・被験者として健常人、患者などの参加が不可欠である。臨床研究に携わる者にとって、資金及び利益提供者となる企業組織、団体などとの利益相反状態が深刻になればなるほど、被験者の人権や生命の安全・安心が損なわれることが起こりうるし、研究の方法、データの解析、結果の解釈が歪められるおそれも生じる。また、適切な研究成果であるにもかかわらず、公正な評価や発表がなされないことも起こりうる。しかし、過去の集積事例の多くは、産学連携に伴う利益相反状態そのものに問題があったのではなく、それを適切にマネージメントしていなかったことに問題があるとの指摘がなされている。近年、国内外において、多くの医学系の施設や学術団体は臨床研究の公正・公平さの維持、学会発表での透明性、かつ社会的信頼性を保持しつつ産学連携による臨床研究の適正な推進を図るために、臨床研究にかかる利益相反指針を策定しており、適切なCOIマネージメントによって正当な研究成果を社会へ還元するための努力を重ねている。
本学会においても会員などに本学会事業での発表などで利益相反状態にあるスポンサーとの経済的な関係を一定要件のもとに開示させることにより、会員などの利益相反状態を適正にマネージメントし、社会に対する説明責任を果たすために利益相反指針を策定する。
I.目的
人間を対象とする医学研究の倫理的原則については、すでに、「ヘルシンキ宣言」や「臨床研究の倫理指針(厚生労働省告示第255号、2008年度改訂)」において述べられているが、被験者の人権・生命を守り、安全に実施することに格別な配慮が求められる。
本学会は、その活動において社会的責任と高度な倫理性が要求されていることに鑑み、「臨床研究の利益相反(COI)に関する指針」(以下、本指針と略す)を策定する。本指針の目的は、本学会が会員などの利益相反状態を適切にマネージメントすることにより、研究成果の発表やそれらの普及・啓発などの活動を中立性と公明性を維持した状態で適正に推進させ、疾患の予防・診断・治療の進歩に貢献することにより社会的責務を果たすことにある。従って、本指針では、会員などに対して利益相反についての基本的な考えを示し、本学会の会員などが各種事業に参加し発表する場合、自らの利益相反状態を自己申告によって適切に開示し、本指針を遵守することを求める。
II.対象者
利益相反状態が生じる可能性がある以下の対象者に対し、本指針が適用される。- 本学会会員
- 本学会の学術講演会などで発表する者
- 本学会の役員(理事長、理事、監事)、評議員、学術講演会担当責任者(会長など)、各種委員会の委員長
- 本学会の事務職員
- (1)~(4)の対象者の配偶者、一親等内の親族、または収入・財産を共有する者
III.対象となる活動
本学会が行うすべての事業活動に対して本指針を適用する。
- 学術講演会(年次総会)の開催
- 学会機関誌、学術図書などの発行
- 研究及び調査の実施
- 研究の奨励及び研究業績の表彰
- 生涯学習活動の推進
- 関連学術団体との連絡及び協力
- 国際的な研究協力の推進
- その他目的を達成するために必要な事業
特に、下記の活動を行う場合には、特段の指針遵守が求められる。
- ① 本学会が主催する学術講演会(以下、講演会など)などでの発表
- ② 学会機関誌などの刊行物での発表
- ③ 診療ガイドライン、マニュアルなどの策定
- ④ 臨時に設置される調査委員会、諮問委員会などでの作業
- (1) 企業・法人組織、営利を目的とする団体の役員、顧問職、社員などへの就任
- (2) 企業の株の保有
- (3) 企業・法人組織、営利を目的とする団体からの特許権使用料
- (4) 企業・法人組織、営利を目的とする団体から、会議の出席(発表)に対し、研究者を拘束した時間・労力に対して支払われた日当(講演料など)
- (5) 企業・法人組織、営利を目的とする団体がパンフレットなどの執筆に対して支払った原稿料
- (6) 企業・法人組織、営利を目的とする団体が提供する臨床研究費(治験、臨床試験費など)
- (7) 企業・法人組織、営利を目的とする団体が提供する研究費(受託研究、共同研究、寄付金など)
- (8) 企業・法人組織、営利を目的とする団体が提供する寄付講座
- (9) 企業・法人組織、営利を目的とする団体が提供する研究、教育、診療とは無関係な旅行、贈答品
- (1) 臨床研究を依頼する企業の株の保有
- (2) 臨床研究の結果から得られる製品・技術の特許料・特許権の獲得
- (3) 臨床研究を依頼する企業や営利を目的とした団体の役員、理事、顧問など(無償の科学的な顧問は除く
IV.申告すべき事項
対象者は、個人における以下の(1)~(9)の事項で、細則で定める基準を超える場合には、その正確な状況を本学会理事長に申告するものとする。なお、申告された内容の具体的な開示、公開の方法については別に細則で定める。
V. 利益相反状態との関係で回避すべき事項
1.対象者の全てが回避すべきこと
臨床研究の結果の公表や診療ガイドラインの策定などは、純粋に科学的な根拠と判断、あるいは公共の利益に基づいて行われるべきである。本学会の会員などは、臨床研究の結果とその解釈といった公表内容や、臨床研究での科学的な根拠に基づく診療(診断、治療)ガイドライン・マニュアルなどの作成について、その臨床研究の資金提供者・企業の恣意的な意図に影響されてはならず、また影響を避けられないような契約を資金提供者などと締結してはならない。
2.臨床研究の試験責任者が回避すべきこと
臨床研究(臨床試験、治験を含む)の計画・実施に決定権を持つ総括責任者は、次の項目に関して重大な利益相反状態にない(依頼者との関係が少ない)と社会的に評価される研究者が選出されるべきであり、また選出後もその状態を維持すべきである。
但し、(1)~(3)に該当する研究者であっても、当該臨床研究を計画・実行する上で必要不可欠の人材であり、かつ当該臨床研究が医学的に極めて重要な意義をもつような場合には、その判断と措置の公平性、公正性及び透明性が明確に担保されるかぎり、当該臨床研究の試験責任医師に就任することができる。
VI. 実施方法
1.会員の責務
会員は臨床研究成果を学術講演などで発表する場合、当該研究実施に関わる利益相反状態を発表時に、本学会の細則に従い、所定の書式で適切に開示するものとする。研究などの発表との関係で、本指針に反するとの指摘がなされた場合には、理事会は利益相反を管轄する倫理委員会に審議を求め、その答申に基づき、妥当な措置方法を講ずる。
2.役員などの責務本学会の役員(理事長、理事、監事)、評議員、学術講演会担当責任者(会長など)、各種委員会委員長および作業部会の委員は本学会に関わるすべての事業活動に対して重要な役割と責務を担っており、当該事業に関わる利益相反状況については、就任した時点で所定の書式に従い自己申告を行なうものとする。また、就任後、新たに利益相反状態が発生した場合には規定に従い、修正申告を行うものとする。
3.利益相反における倫理委員会の役割
倫理委員会は、本学会が行うすべての事業において、重大な利益相反状態が会員に生じた場合、あるいは、利益相反の自己申告が不適切であった場合、当該会員にその旨を通知し、適切な指導を行なう。また、利益相反の自己申告に疑義があると指摘された場合、当該会員の利益相反状態をマネージメントするためにヒアリングなどの調査を行い、その結果を理事長に答申する。
4.理事会の役割
理事会は、役員などが本学会のすべての事業を遂行する上で、重大な利益相反状態が生じた場合、或いは利益相反の自己申告が不適切と認めた場合、倫理委員会に諮問し、答申に基づいて改善措置などを指示することができる。
5.学術講演会担当責任者の役割
学術講演会の担当責任者(会長など)は、学会で臨床研究の成果が発表される場合、その実施が本指針に沿ったものであることを確認し、本指針に反する演題については発表を差し止めるなどの措置を行うことができる。この場合には、速やかに発表予定者に理由を付してその旨を通知する。なお、これらの対処については倫理委員会に諮問し、答申に基づいて理事会は改善措置などを指示することが出来る。
6.編集委員会の役割
学会誌編集委員会は、学会機関誌などの刊行物で研究成果の原著論文、総説、診療ガイドライン、編集記事、意見などが発表される場合、その実施が本指針に沿ったものであることを確認し、本指針に反する場合には掲載を差し止めるなどの措置を行うことができる。この場合、速やかに当該論文投稿者に理由を付してその旨を通知する。本指針に違反していたことが当該論文掲載後に判明した場合は、当該刊行物などに編集委員長名でその由を公知することができる。その際、編集委員長は倫理委員会に諮問し、答申に基づいて改善措置などを指示することができる。
7.その他
その他の委員長・委員は、それぞれが関与する学会事業に関して、その実施が本指針に沿ったものであることを検証し、本指針に反する事態が生じた場合には、速やかに事態の改善策を検討する。なお、これらの対処については倫理委員会に諮問し、答申に基づいて理事会は改善措置などを指示することができる。
VII.指針違反者への措置と説明責任
1.指針違反者への措置
本学会理事会は、別に定める規則により、本指針に違反する行為に関して審議する権限を有しており、倫理委員会に諮問し、答申を得た後、理事会にて審議の結果、重大な遵守不履行に該当すると判断した場合には、その遵守不履行の程度に応じて罰則などの措置を講ずることができる。
2.不服の申立
被措置者は、本学会に対し不服申立をすることができる。本学会の理事長はこれを受理した場合、速やかに不服申立て審査委員会(暫定諮問委員会)を設置し、審査を委ね、その答申を理事会で協議した上で、その結果を不服申立者に通知する。
3.説明責任
本学会は、自ら関与する場所にて発表された臨床研究成果について、重大な本指針の違反があると判断した場合は、理事会の協議を経て社会に対する説明責任を果たさねばならない。
VIII.関連学会との連携
本学会は、臨床系(内科など)、基礎医学系、社会学系の多くの関連学会と密接に連携し、本指針の見直し作業、細則に関する情報交換を行うための協議の場を持つ。
IX.細則の制定
本学会は、本指針を実際に運用するために必要な細則を制定することができる。
X.指針の改正
本指針は、社会的要因や産学連携に関する法令の改正、整備ならびに医療及び研究をめぐる諸条件に適合させるためには、定期的に見直しを行い、改正することができる。
XI.施行日
本指針は、平成26年1月1日から1年間を試行期間とし、平成27年1月1日より完全実施とする。